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高校野球の投球数問題.選手ファーストならガイドライン無視は完全なるエゴ.

大阪桐蔭高校の春夏連覇で幕を閉じた,第100回全国高校野球選手権大会.

 

決勝戦では,日本代表チームと呼んでも過言ではないほど選手層がぶ厚い私立の大阪桐蔭に対して,実質9人で勝ち上がってきた東北の県立高校である金足農業が挑戦する,日本人が大好きな構図となり,過去のいろんな歴史を引っ張り出してきては史上初と煽りまくっていました.

 

金足農業の吉田君は,予選から甲子園の準決勝までを一人で投げきり,決勝戦では力尽きた,といっても132球を投げている.

感動をありがとう!など,美談で語られることが多い一方で,短期間で881球を投げさせたことに対して,様々な批判が寄せられています.

 

さらに,今年は災害レベルの猛暑とも重なり,夏の甲子園のあり方,主催する朝日新聞のダブルスタンダード(猛暑のなか学校行事で児童が死んだ,けしからん!といっている一方で,炎天下選手も観客も命がけで野球をやらせて利益を得ている),そもそも甲子園でやる必要があるのかなど多くの意見が出されましたね.

 

その中で,投球数制限に関して,東京オリンピックを控え「選手ファースト」がキーワードになっているので,選手ファーストの視点にたって考えてみたいと思います.

 

 

投球数制限に関する議論

高校野球の投球数制限に対するネットやスポーツジャーナリスト,プロ野球経験者の意見を大まかにまとめてみます.

 

球数導入に批判的な意見としては,

  • 投手が数人必要となり選手を集められない中小の学校が躍進することがなくなる
  • 多くの選手を集められる私立が有利になり,地方の公立高校は不利になる
  • 選手が甲子園という目標に向かって努力しているのを阻害する
  • 野球がつまらなくなる

など,選手の肘や肩など体のことを心配してではなく,見世物としての面白さが無くなるという完全なるエゴですね.

 

さらに衝撃的なニュースが流れてきました.

news.livedoor.com

球数制限に関して,数チームの部長やコーチの意見が載せられています.

リンク切れするかもしれないので引用しておきます.

 

金足農の秋本コーチ

「球数制限には反対です。秋田は野球人口だけではなく、子供そのものの数も減ってきていて、小学校でも連合チームが増えています。限られた戦力の中で勝負しなければならない状況で、公立校で3人も4人も継投できる投手を確保するのは現実的に難しい。導入されれば、今大会のウチのような躍進は極めて難しい。お客さんのためにやっているわけではないが、ドラマも何も生まれなくなってしまうのではないでしょうか」

 

 済美の田坂部長

「ルールとして何球以内と制限するのは反対です。なにより生徒たちは甲子園に行きたい、投げたい、プレーしたいと思って入部してくる。我々は甲子園に行かせてあげるためにベストを尽くしている。そこをまず考えて、投手の起用や采配を振るっている。指導者が投手の状態、試合展開、いろんなバランスを測りながら判断していくのがいいと思います」

 

日大三の三木部長

「制限を設けるのは反対です。高校野球は教育の一環。今大会で言えば、吉田君の気迫や、一人でマウンドを守り抜くエースを仲間が助けようとする姿に、多くの人が心を揺さぶられ感じるものがあったのではないでしょうか。投球制限が設けられれば、埋没してしまう才能もあるのでは。私は一指導者として、そういうタフな選手を育てていきたい」

 

おったまげます.

 

共通するのは結局自分たちのチームが甲子園で勝つことがファーストで,選手の体を守るということはセカンド以降です.

もちろん一部の意見だと思いますし,各人ともこれだけを語ったのではなく,選手のことを思いやった発言はマスコミ得意の切り取りされている可能性があります.

 

日大三の部長など「タフな選手を育てていきたい」など,噴飯ものです.大いに勘違いしている.タフな選手は「育てられている」ではなく,間違いなく「淘汰されて残っただけ」である.日大三校の部員数は71人.「代わりはいくらでもいる」でしょ!?

 

甲子園で活躍する選手の陰には,多数の壊れてしまった選手がいることを知る必要があります.

 

実際C55の同級生でも,中学校の県大会でエースとして投げ優勝し,地元の野球の名門高校に投手として推薦で入学しました.しかし,過度の投げ込みやチーム内競争,1年生の時にバッティングピッチャーとしてかなりの数を投げたため肘を壊してしまいました.高校2年までで野球を辞めざるを得ませんでした.肘が曲がらなくなってしまい,野球をやめて20年以上が経過した今でも,右手で右耳が触れなくなってしまっています.

 

「二度と野球なんかしたくない」

 

美談を語る前に,肘や肩を壊して夢をあきらめた生徒,野球そのものが嫌になってしまった多くの生徒がいることを知るべきだと思います.

 

ガイドライン

「選手ファースト」の視点考えるなら,球数制限は絶対に導入すべきです.

 

いつの時代も誤った感情論が先行する日本では,まだなじみが薄いですが,合理的な判断をする米国ではガイドラインが制定されています.

 

ガイドラインは,どこかのエライ人の意見とか,たまたまうまくいった人の意見ではなく,科学的に検証されたエビデンスに基づいて作成されています.

 

若いピッチャーのガイドラインはメジャーリーグ機構のサイトに載っています.

m.mlb.com

 

Guidelines for youth and adolscent pitchers

米国での若いピッチャーのためのガイドラインの中で,今回話題としている高校生に該当する年齢(15−18歳)を抜粋します.

 

Players can begin using breaking pitches after developing consistent fastball and changeup

速球やチェンジアップが投げられるようになってから他の変化球を投げるコトができる. breking pitches=breaking ball (スライダーやフォークボールなどの変化球)


Do not exceed 100 combined innings pitched in any 12 month period

1年間で100イニングを超えて投げてはいけない


Take at least 4 months off from competitive pitching every year, including at least 2-3 continuous months off from all overhead throwing

毎年,真剣勝負で投球したあとは少なくとも4ヶ月は休む.少なくとも上から投げた(ソフトボールではなく野球を想定していると思う)あとは2−3ヶ月間は連続して休むこと.


Make sure to properly warm up before pitching

投げる前には必ずウォーミングアップを行うこと


Set and follow pitch-count limits and required rest periods

投球制限を設けそれに従う,そして休息期間を設けること


Avoid playing for multiple teams at the same time

同時に複数のチームでプレーすることを避ける


Avoid playing catcher while not pitching

ピッチャーをしていない時にキャッチャーするな


Players should not pitch in multiple games on the same day

同日に複数の試合で投げるな


Make sure to follow guidelines across leagues, tournaments and showcases

リーグ,トーナメント,興業を横断してガイドラインに従うこと


Monitor for other signs of fatigue

その他の疲労の兆候をモニターしろ


A pitcher remaining in the game, but moving to a different position, can return as a pitcher anytime in the remainder of the game, but only once per game

ピッチャーは試合の残りイニング,他のポジションに着くことができ,1度に限りピッチャーに戻って投げることができる


No pitcher shall appear in a game as a pitcher for three consecutive days, regardless of pitch counts

投球数に関わらず,連続した3試合をピッチャーとして出場するべきではない.

 

年齢と1日の最大投球数,球数に応じた休息日数を示した表です.

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このサイトではガイドライン作成の根拠となった研究の引用を見ることはできませんが,"pitch count", "elbow", " youth"などでgoogle検索すると球数制限対する多くの学術記事を見つけることができます.

 

一時の感情論や,協会のエライ人の意見,名将と呼ばれる人の意見,甲子園経験者の意見ではなく,しっかりと検証されたエビデンスに基づいて制定されています.

 

豊かな才能を持った若者達には,ケガをせず長くプレーして貰った方が,選手にとってもチームにとっても経済的合理性があると思います.

 

もしサッカーの様に,プロ野球の球団がユースチームを作って甲子園を目指すようになったら,球数制限を速攻で導入するんじゃないかと邪推します.

 

まとめ

選手ファーストを基準に考えるなら,ガイドラインに従って投球数制限を導入すべきです.

 

今の時代,有力者の経験や一時的な感情論ではなく,エビデンスに基づいてルールが作られるべきであると考えます.

 

 野球の投球数制限も給食の牛乳も,問題の根本は同じです.

www.c55hero.com